鳳凰三山縦走記


                         第七回
               
                ()()()(


 最初の目的地の鳳凰小屋まで、だいぶ近づいて来た。

ここで少し遅くなったようにと思うが、

一緒に登っている3人のことを書いておきたいと思う。


このときは総勢4人だった。

年齢差はたびたび話の中に出てくるので、

毎回欠かさず読んでいただいてる人には、

わかっていただいてると思う。


隊長は、今回の登山を企画立案した本人。

メンバーの中では一番経験がある。

どのくらいだったかなー?

と言う疑問は今も解けない。

今では立派な恐妻家で一女のパパである。

会うたびに「娘が・・・」と言っている。

かわいくて仕方がないらしい。

公務員として市民のために働いている。


サイトウ君は、まだ二十代前半で一番若かった。

体はデカく、こちらより15センチ位背が高い。

肩幅もありがっちりしていて、いい体格をしている。

とにかく登りがきつくなるほど歩幅が広がって

登るのが早くなる、とんでもない奴だった。


・・・だった・・・と過去形になったのはもちろん意味があって、

今では体重100キロにとどくかというところまできて、

なんと青筋を立ててダイエットしている。


今年も一緒に山に登ったがその時、だいぶ効果が上がって

やせることができたと喜んでいた。

彼もいまや中堅の立派なサラリーマンである。

粘りずよく仕事をこなしている。


最後のシンドウ君だが、この登山の後何度か一緒に山に

登ったが、その後消息が分からなくなってしまった。

彼も180センチを超えるかというでかい男だった、

音楽関係の仕事をしていたので、

全国を飛び回っているのだろう。

頭頂部が20歳半ばですでに薄かったので、

今ごろきれいに、そのへんは整理されたと想像できる。

彼も強くて登るのが素晴らしく早く、

サイトウ君とよく先を争って登っていた。

この時、彼もカメラと三脚を持って登っていた。

こちらがまったく三脚をセットして写真を撮ることができないのに、

どんどん先を登ってこちらが追いつく間に

しっかり撮影していたと思う。

メンバー紹介も長くなってしまったが、話を元に戻そう。


怖いところも過ぎてとにかく一歩一歩を刻んでいた。

荷物を分けて少しは軽くなったはずのザックは

しかし、肩にどんどんのしかかってくる、容赦がない。

「もう少し荷物を持ってくれない」と言うと、

サイトウ君とシンドウ君がほとん、ど同時に

「エエ~!」

と声を上げて

「ダメですよ、みんなつらいんだから~」

と、つれない返事をよこした。

(そんだけパッパと登ってて、つらいもないんじゃないかい)

とかなんとか弱々しく思ったのを覚えている。

情けない状況だ。


下を向いて弱々しく一歩一歩と登っていくと、                    

サイトウ君がこちらの背中に回って、こちらの尻を押し始める。

「う~ん!」

と、力強くうなって思いきり押す。

そのつど地に着く予定の足が空振りしそうになる。

この時ふくらはぎがツリそうになり、

「いてて!」

と、声を上げる、とまた憎たらしくも

「さぁ~、どんどん行きましょう」

とあおってくる。

(まったくこいつめ!)とカッカするが、

とにかく、ガ~ッと文句を言う気力も無く、ヘラヘラして

「もう押さなくていいって!」

と、言うのが精一杯だった。

ほとんどおちょくられていた。


しかし、登っても登っても雄大な景色というのは現れず、

時々、樹林帯の切れ目から山の景色が見える程度だ。

沢の流れる音が近くなったり遠くなたりして

聞こえていたようにも思う。

滝も遠望できたと思う。

登るほどに風は涼しくなっていって、

ボーっとする頭がシャキッとした。

風に当たる度に生き返った。

下を向きっぱなしで登り続けていると、

突然視界が広がった。

「あれ!」

と、言って隊長を振り返ると、

「着きましたね」

といともあっさりと言った。

単純に小屋に着いたのかと思った。

しかしやはりそんな甘いものではありません。

北御室小屋に着いたのだった。

しかし、道はかなり広く、広いまま左右に続いている。

下は大きめの岩と小さめの岩が、ゴロゴロしている。

大木が根こそぎ倒れたりしている。

雨が降れば濁流が一気に流れ、

即、川底になるのだろう。

荒々しい自然と言うものを十分感じることが

できる光景を前にした、

都会育ちの身には少し冒険をしているぞ、

の感があった。


この初体験が結局今まで山をやめずに登り続けた

理由の大部分だと思う。

右を見ると地蔵岳が見えている。

(ついに来たな~)と正直思った。

うれしくなった。

「鳳凰小屋までもうほんの少しですよ」

隊長が言った。

この一言がほんとーにうれしかった!


北御室小屋は、ほとんど廃屋で崩れる寸前に見えた。

今はもう崩れ去ったのではないかと思う。

この時から20年近くの時間が過ぎている。
=つづく=




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