鳳凰三山縦走記


                         第五回
               
                ()()(



                     


前回は道に迷ってそこから脱出するところまでだった。

今回はその後からだ。


登りはさらにきつくなった。

まさに情け無用というところだ。

三歩登ると一歩休む状態になってきた。

隊長は「南アルプスに来たんだからこのくらいは当然でしょ」

ときびしい顔で言っている。

それもそうだとは思うのであるが

とにかく足が上がらない。

体を持ち上げるとき後ろ足で蹴るかなと思い

何回かやってみた。

しかし、今度はふくらはぎがつってしまう。

こむらがえりのようになるのだ。

「いててて、ストップ」と声が出る。

「大丈夫ですか」とサイトウ君が明るく言う。

(まったく冗談じゃねえ)と内心思いながら無言でいる。

ふくらはぎを慌てて揉む。

とりあえずこれで治るのだが

すぐまたなる。

(マイッタナー)とちょっと深刻になってきた。


ドンドコ沢は日本三大急登の一つだという。

何も知らないということはそういう所にでも来てしまうのだ。

恐ろしいです。


特にこの年は去年の台風の影響で、

土は階段状にえぐられ、

えっ!と思うような大木が、がんがん倒れている。

これを短い足でまたいで越えなければならない。

また越えられないとくぐらなければならない。

ザックをしょって木の下をくぐるというのも

けっこうつらいものだ。

ザックが木にひっかかって

前に行けず後ろ頭をぶつけたりする。

それでもそれっこそ歯を食いしばって

止まりながらも登りつづけた。

しかし、それでもきびしくなった。

だいたい倒れた大木を馬乗りになって越えたり、

腰をかがめてくぐったりを繰り返せば相当厳しい!!

しかも登りの道が階段状になっているというのは


ホントに体力を消耗していく。

しかもザックは仇のように重い。

とうとう隊長が見かねたのか

「荷物を分けましょう」と一言いった。

こいう時は、ホッとするのとくやしさと

少しの屈辱感が同時に浮かんでくる。

しかし、もうその言葉が出てくると、

踏ん張る気力はなくなる。

箱ごと持ってきてしまったマーガリん・・・。

バスタオル二枚・・・。

着替え毎日一揃えを三日分・・・。

ビックリするようなものが出てくる。

隊長もあきれ顔だ・・・。

知らないというのは結構恐ろしいものだ。

この後からの登山はこの時の教訓が身に沁みて生きていた。


サイトウ君が「しょうがないなもう」とぶちぶち言いながら

ザックを下ろして分けた荷物をしまいだした。

シンドウ君は、入りそうなだけ荷物をとると

黙ってさっさとザックにおさめるとふたをしていた。

ドンドコ沢の登りはこれで大体終わりではない。

まだまだ続くのだ。
=つづく=



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