△北岳登頂始末記

                  


            =第三回=
列車は、静かに滑るようにホームを後にする。
ホームの灯りが遠ざかり夜の闇の中を走り出す。
見慣れた風景視界からドンドン遠ざかっていく風情は、
なんとも言えない、
一抹の湿り気を持った気持ちにさせられる。

新宿のビルの灯が過ぎていこうとしている。
この遅い時間にまだ仕事をしている人も結構いるんだなと、
短いが旅に出る自分がちょっと悪いような様な気分になった。
こういう街の灯を車窓から過ぎていくのを見ていると
ちょっと薄められたような寂しさが心を支配する。

帰ってくる時は新宿駅に帰ってくることはない。

列車の中では全員それぞれ分かれたが座れたと思う。
それぞれ雑談をしていたが
男性陣はビールを持ち込んでいて飲み始める。
寝酒に飲むのだが、アルコールが入らないととても眠れない。

わたくしも、普段はまったく酒は飲まないのだが
この時は少しでも眠りたいと思い、
缶の半分くらいをもらって飲んだ。
酔いが回ってきて目を閉じる。
しかし、そのくらいの酔いではとても眠れない、
耳栓をした。
これで雑音が無くなり楽になった。

皆、目をつぶっているが寝てるのかどうかわからない。
しばらく経つと列車内の中の電気の灯りが、
心持ち暗くなったように思う。
乗客全体が静かになった、
しかし、それでも眠れない!!

この間にメンバーのことを少し紹介したい。
少しでも眠くなる間の時間にだ。
眠くなった所でとりあえず終わる
と言うことで・・・・・・

まず、一番年齢の下のミホちゃんだが、
彼女は、内科の看護婦さんだった。
看護婦さんというとだいたいは皆、体格がいい。
彼女も例に漏れず、ガッチリしていて、腕も太く、
身長も163センチメートルくらいあった。
患者さんに対するのに非力だと、仕事にならないと言っていた。

しかし、たくましい体格に似合わず、顔は可愛らしく、
そして、なんといってもバストはFカップの超ボインだった。
視線の方向に困るタイプだ。
今は2児の母親で、子育てに奮闘中ということだ。
年齢は、この隊の中で一番若かった。
初めての登山が、北岳登頂になってしまった。
若干無謀だったか・・・・・・・・。

次は、ミヤモトさんだろう。
この時までに、何回か一緒に山には登ったが、
もう、その体力、気力はものすごくて、
とにかくどんな急登でも表情を変えることなくこなしてしまう。
雨だろうがなんだろうが、どんな厳しい条件の中でも強い、
めげるということが無い!!
話し方がかわいらしくて、声がいつも明るい。
いつも楽しそうで、話をするとこちらがいくらバテていても、
楽しい気分にしてくれる。

ミヤモトさんが、登山を始めるきっかけをつくったのは、
わたくしです。
     
しかし、この時までにしっかりと力の差がついていて、
ミヤモトさんは、自分の身長くらいのザックを背負っても元気で、
力強く登っていく。
今では、日本でも有数の女性登山家ではないだろうか。
ほんとに小柄なのだが、
3児の母親ともなると、根本的な気合がどうも違いますな。

現在、ミヤモトさんは、
ドンドン厳しい山に向かっていくのに対して、
こちらは、ドンドン高度が下がってきて、
低山の頂上で焼肉を食べるのが楽しみになってしまった。
恥ずかしくて「登山に行こう」と誘えなくなった。
イヤハヤなんともである。            

ミヤモトさんの友達でカナダさんがいた。
カナダさんは、ミヤモトさんと最初に登山に行った時に、
ミヤモトさんの紹介で知り合いになった。

始めて会った時、なんといってもビックリした!!
その美貌にだ!!
身長も高くてスタイルも抜群だ。
身長は、わたくしと同じくらいある、それ以上か・・・・。
ニッカボッカが非常に良く似合った。
最初に挨拶をした時は、不覚にも上がってしまった。

登山歴は長くて、
高校生の時すでに山岳部に所属していたと言うことだった。
まあ、ホントのベテランだ、山の歩き方も決まっていた。
しかし、それでもなんとも普通に会話をしていて、
こちらがショウも無いことを言っていても、
その話の中に気軽に参加してくれた。

帰りに隊長に「カナダさん、美人じゃない」と言うと、
隊長も「バレーボールのミツヤに似てる」と言っていた。
隊長と話すと、すぐ下世話になるのがどうもいけない。

でも、ミツヤよりも美人だとわたくしは思った。

アメミヤさんも美貌の主婦で、
隊長と、この年の5月に北八ヶ岳まで縦走した時に、
「アメミヤさん、美人ですねー」と本人の目の前で、
結構、ハッキリと言っていた。
隊長じゃないと言えない一言だ。

南御室までの歩きの途中で、
立っているだけなのに、突然!!
滑って尻もちを付いていた、珍しい光景だった。
まあ、可笑しくて笑った。
しかし、アメミヤさんも貧血だと言っていながら、
こちらが泣きたくなるような場面でも元気だった。

まだ夜行列車は、静かな眠りの中を走っている。
今のうちに、残りの人たちの紹介もしておきたい。


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