△北岳登頂始末記

                  


            =第二回=
出発の日、割り当てられた食料を買って、荷造りを始める。
温泉の入浴道具一式は忘れない。
これは鉄則というものだ。
しかし、カメラは鳳凰山残の時のキヤノンニューF1から、
コニカビックミニに代わっていた。
(当時、コニカから出ていたコンパクトカメラです)

初日の登りにテントを持つことにした。
本当につらい縦走の前に役目を終わろうという目論見だった。
タイトルは登頂記なのに縦走という言葉は変な感じではあります。

新宿発の夜行列車に乗っての出発なので、
同じ駅周辺に住むメンバーは駅の改札口に集合。
アメミヤさん、カナダさん、ミヤモトさん、ミホちゃん、カリタくん、
そして自分だ。

この集合時間は午後9:30過ぎだっと思う。
顔を合わせたときの皆の表情が明るかったのが印象的だった。
ザックでスペースを取りながら、しかし控えめに電車に乗って、
ザワザワと雑談を交わしながら、
新宿アルプス広場(今は存在しません)に向かった。

新宿駅を大きいザックを担ぎながら、6人も歩いていると、
やはり目立つ!!
行き交うビジネススタイルの人との対比が凄い!!
これからまったく別の世界へ旅立つこの6人の周りには、
けっこう分厚い透明な壁ができている。
まあ、回りの風景からは絶妙に浮いている。

それにしても他の5人はなにも感じなかったのだろうか・・・。
アメミヤさん、カナダさん、ミヤモトさんが、
気にならないのはなんとなくわかる。
しかし、まだ若いカリタくんや、
今回の山行のメンバーで一番若いミホちゃんは、
どう感じたのだろうか・・・。
一度聞いてみたい気がした。

アルプス広場に到着すると、
隊長、オダカ君はもう来ていた。
あとの人たちは各地から三々五々集まってくる。
一番遠くから来るのはコデラくんだ。
埼玉県からはるばる参加だ。

サイトウくんがわたくしのザックを持ち上げて、
「軽い!!」と一言出る。
(憎たらしいことをまた言う・・・)
いつものことながら内心思う。
しかし、サイトウくんとオダカくんのザックは、
鉄の塊が入ってるのかと思うほど重い。
ま、驚きました!!

自分はこの10年ザックの軽量化に努めてきている。
お茶パック一つも見逃さずだ。
その成果は確実の出てきている。
今回は荷物にテントが入る。
徹底した軽量化を目指してきていた。
軽いのは当然だろう・・・。

「ホームに行きましょう」
との隊長の一言で皆ザックを背負う。
一歩踏み出すとなんとも言えない緊張感が出てきた。
(いよいよだ・・・)
内心引き締まるのを感じた。
この非日常的な緊張感がまたいいのです。

とりあえず今回は初めての人が多いので、
自分は10年の経験者という顔をしていられる。
それはそれでまたなんかくすぐられるものがある。

ホームに上がってみんなの買ってきた割り当ての食料を、
それぞれのザックに分けることになった。
テント運搬組と、食料運搬組とに分かれて、
それぞれ入るものを渡しあう。
手際がいいというかどんどん分けられていく。
そこでハッと気づいたのだが、
イシカワさんとその友達のマキちゃんのザックは、
なんとミレーのザックだった・・・。

「いいなー!!」と思わず声が出た。
ミレーのザックはフランス製だ。
デザインもいいし色合いもいい、しかも機能的だ。
買いたいなと思いつついまだに買えてない・・・。
今は、ICIオリジナルを愛用している。
いまいち見た目に差がある。

荷物を分けているうちに、
ミホちゃんの受け取る荷物が、
かなり多くなっていることに気が付いた。
本人が荷物が出るたびに手を出すからだが、
ちょっと危ないなと思い隊長に、
「ちょっと危ない重さになってない?」と、声をかけた。
「アー…そうかもしれない」
と、言ってミホちゃんのザックを見た。
ミホちゃんは「大丈夫です」と言っている。
しかし、なんとなく不安になって、
荷物の一部をほかの人に振り分けた。

こういうところで10年のキャリアを見せたのです。
なんとなく満足しているところで、
サイトウくんのいびりが出るのです。

荷物訳も一段落くして、
とりとめもなくそれぞれしゃべっていると、
午後11:55の各駅停車の長野行きの最終列車入ってきた。
今はもうこの列車もなくなってしまったようだ。
なんだか寂しい気分にさせられる。
山を目指す人が結構乗っていて、
山電車の別名があった。

この長野行きの最終電車には結構お世話になっていて、
最盛期には学生の山岳部や一般の登山隊などが列を成していて、
一緒に駅員の誘導でホームに向かったこともある。
その頃がこのアルプス広場の最盛期だったのかなと思う。

今は交通手段も多様化しており、
しかも夜を徹しての山行も減ってきてるのかもしれない。
本当の山男、山女という雰囲気は、
すでに時代遅れなのかもしれない。
アルプス広場に集まる登山者たちの活気はもうない。
躍動感に満ちた空気感というのも、もうない・・・。


    一番賑わっていたころの山電車を待つホームの賑わい。
        けっこう古い写真ではありますが・・・。
     

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