二子山登山始末記





=第十回=

とにかくみな動かないように強くリーダーは指示していた。

声を発する人もなく、しんとした中で、

一人の方のトランシーバーで110番に通報するように依頼する。

この状況はもうリーダー一人では手に負えないということだ。

リーダーの後について落ちた場所に行くと、

わずかに落ちた人の頭が見える。

その場所からは下に降りられそうにもないので、

5メートルほど離れたところから、

15メートルのロープを使い落ちた人のそばまで下りていく。

「どうですか」と声をかけると、

「両脇が木の枝に引っかかった状態です」と声が返ってきた。

木の下は崖になっていてスパッと切れおちてるようだ。

一瞬の猶予もない。

少しでも無理に動かそうとするとそのまま転落しそうだと言う。

一番気になっている怪我の状態を聞くと、

手足は特に問題なく動くが、

胸が痛むといってかなり辛そうだと言っている。

落ちたときにかなり圧迫されたということだろう。

下手に動かれるとそのまま転落する危険があるので、

静かにするようにリーダーが説得してい声が聞こえる。

説得して少し落ち着いたのか、

リーダーが我々のところまで戻ってきた。

とにかくこのままだと力尽きる恐れがあるので、

足のつくところまで移動させるという。



「動かして大丈夫ですか?」と言うと、

「どっちにしてもこのままだと落ちる可能性があるので、

足がつくところまで移動させてみるという」

「とにかく動かないでほしい」と言って、

また落ちた人のところに降りて行った。

落ちた人を移動させようとするリーダーの声が聞こえる。

「痛い、痛い」と泣きそうな声を出している。

移動するのをやめようとするのか、

リーダーの叱咤激励の声が聞こえてくる。

とにかく足のつくところまでは移動できようだ。

リーダーが戻ってきた。

とにかく自分が何かできる状況にはなく、

下手をすると二重遭難になりかねないと言う。

足のつくところまでは移動できたのと、

手で枝をつかむこともできているという。

ただとてもここまで引き上げることはできない状態らしい。

どうするかリーダーも迷ってるようだ。=つづく=




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