ギターエッセイ

                        


                   





              ☆<土曜ゼミ>見聞記☆
                               アンダンテ主催




 8月4日(土)気温35度、土曜セミナーの日。

「一度ITOさんの独奏が聞きたい」

と、半年前から思っていた私にとっては嬉しい日でした。


 会場の楽器店「アンダンテ」は神保町にあります。

到着したとき、開始までまだ1時間以上ありましたが、

部屋の3分の2はすでに参加者で埋まり、

それぞれが今日弾く曲やスケールなどの練習をしていました。

部屋は学校の教室を一回り小さくした位の広さで、

正面にある「舞台」は30cmほどの高さしかありません。

演奏者ならこれを見て、聴衆との近さが気になるはずです。

 私はというと、壁のあちこちに飾られている「ハウザー」を見たり、

休憩中のITOさんの楽器(ハウザー)を借りて、

好きな曲を弾いたりしていました。

途中から、レッスンを終えたootaniさんも応援にかけつけました。

 セミナーの参加者は12人いましたが、

弾く順番はあみだくじで決めました。

最初か最後にならないことを祈りつつ、私がくじを引きました。

10分前に演奏する順番が発表されましたが、

なかなかITOさんの名前が呼ばれません。

結局コーヒーブレイクをはさんで9番目に決まりました。

ちょっと後ろすぎたかも...?


 5時半になり、演奏が始まりました。

客席は水を打ったように静かです。

聴衆との距離が近く集中しにくいのはもちろんですが、

何よりも「今日初めて会った人の前で弾く」というのが最大の問題です。

なぜなら、家族や友人の前でならたとえ間違えても、

「いつもはもっと上手に弾ける」と分かってもらえるのに対して、

知らない人たちの前で同じことをしたら「これがこの人の実力か」

と、思われてしまうからです。

 やり直しがきかないという点においては、まさに一発勝負の世界です。

そのプレッシャーからか、曲の持ち味を十分に引き出せなかったり、

間違えて途中で止まってしまう演奏者もいました。


 前半の6人が終わると、コーヒーブレイクです。

ITOさんやootaniさんと話をしていたら、

これから演奏する予定の女性が「アンサンブルに入りませんか」と、

私に話しかけてきました。

さっき始まる前に私がITOさんのハウザーで、

適当に練習曲を弾いているのを聞いていたのかも...?

ただ、場所があまりに遠かったので、残念ながら断りました。


 さて、そんなわけで後半開始です。

横目で見ていると、ITOさんはハウザーをケースに入れたり出したり、

いすの横に置いたり何となく落ち着かない雰囲気に...。

そして8番目の人の「4つのベネズエラワルツ」が終わり、

ついにITOさんの名前と演奏曲目が読み上げられました。

ギターを持ってITOさんが30cm上の舞台に上がります。

中央のいすに座り、軽くチューニングをしたあと楽器を構えると、

一瞬時間が止まったように感じられました。

ITOさんにアンダンテ中の注目が集まります。

そして、次に聞こえてきたのは静かで透明感のある音色でした。

1曲目の「第4の王のエスタンピ」です。

13世紀に作られたということで、

不思議な感じのする音階が使われていました。

2曲目は「鐘のひびき」という曲です。

初めて聞く曲ですが、

やわらかく温かみのある和音の進行がとても印象的でした。

が、その一方で1曲目とは対照的に、

切れ目なくどんどん先に進んでいくので、「止まったら目立つ」曲です。

しかしITOさんは滞ることなく、

安定したリズムとテンポで最後まで弾ききりました。

 
 演奏が終わり、

司会者が「今、演奏していた楽器はハウザーです」と言うと、

聴衆の間からどよめきがおこりました。

でも、ITOさんが今回のような演奏ができたのは、

楽器が良かったからではなく、

それを弾きこなすだけの技能があったからだ、と私は思いました。

また機会があったらぜひ聞きに行きたいです。   (終わり)

 



                    メニューへ



                     
topへ