ギターエッセイ





           イギリス館コンサートの思い出(1)〜


 

 今から156年ほど前のある日、その頃教室の生徒さんだったO(オー)さんから、

コンサートの出演依頼がありました。

当時
Oさんは某銀行で働いていて、会社のギター部にも所属しており、

そのギター部がコンサートを開く事になったらしいのですが、

人数が少なくていま一つ盛り上がりに欠けているので、

「あなたも出てもらえないかしら?」と声を掛けてくれたのです。

聞けば、発表会の時にギター部の人を誘って私の演奏を聴きに来てもらっていたらしく、

それで私に出てもらおうと言う事になったのだそうです。

 その時私はスペイン・ギター・コンクールに挑戦していた時でしたので、

二次予選の課題曲であるトゥリーナの「ターレガ讃歌」を演奏したのですが、

とっても難しい曲でほとんどメチャクチャな演奏だったので、

そんな事とは知らなかった私は「もっと練習しておけばよかった」と恥ずかしいやら後悔するやら…。

「本当にあんなヒドイ演奏でいいの?」と聞いたら「是非出て欲しい」。

しかも「会場は横浜のイギリス館で、打ち上げは中華街でお食事よ」との事。

(えっ!!、本当?)。イギリス館と言えば横浜市民の方はご存知のとおり、

以前はイギリスの総領事館邸だったところで、コロニアル・スタイルと言う建築様式で建てられた洋館です。

前に野村先生がそこで行われた室内楽のコンサートに出演された時に一度聴きに行った事があって、

「こんな素敵な所で演奏ができたらどんなにいいだろう」と、その時から密かに憧れていた場所でありました。

オマケに「中華街のディナー付き」と言う言葉が私のミーハー心に火を付け、

即座に「出ますっ!!!」と返事をしてしまいました。

 某銀行のギター部のコンサートはそれから10年ほど続いて行われましたが、

初めの
34年はこのイギリス館で行われたものでした。

今は会社の合併やら何やらの諸事情でギター部自体は無くなってしまいましたが、

その時のメンバーだった何人かの人達とは今でも交流があります。

 

 私の家からイギリス館に行くには、営団地下鉄千代田線で日比谷まで行き、

そこから東横線乗り入れの日比谷線に乗り換えて(運が悪い時は中目黒で東横線乗り換え)桜木町下車、

そこから山手行きのバスに乗り換えてやっとイギリス館に…、と言う経路です。

コンサートがある日はたいがい土曜日の午後なので、

天気が良いと中華街や元町方面に出かける人達でバスが混み合っていて、

重い楽器と着替えをもって混んだバスに乗るのは結構辛いものがありました、

(今はみなとみらい線が開通してかなり便利になったようですね)。

それでもちょっと慣れてきて気持ちとお財布に余裕があったりすると、

桜木町からタクシーに乗って行った事もありました。

 タクシーに乗ると運転手さんによってはイギリス館の門の中まで入ってくれて、

植え込みをぐるっと回り込んで玄関前に車を付けてくれる人もいて、

そんな時はお嬢様になったような錯覚(?)に陥ってかなりいい気分で会場に入って行きました。

でも、さすがに「おつりはいりません」とは言えませんでしたが…。

 

 イギリス館は1階がサロンでコンサートができるスペース。

グランド・ピアノや暖炉があり、奥にはサン・ルームがあって、

かつてここで、パーティや夜会が開かれた事が想像できます。

 本番では前の方に3040脚ほど椅子を並べて客席を作り、

後ろの空いたスペースが休憩時間のティー・スペースになり、コーヒーや紅茶、お茶菓子などを並べます。

2階には4つほど部屋があり、それぞれ集会室や会議室になっていて、

コンサート当日はそのうちの
2部屋ほどを更衣室と控え室として使います。

 初めてイギリス館に演奏しに行った時は、

あいにくの雨降りでかなり本格的に降っていて(本当によく憶えています)、

楽器と着替えを持って傘をさし、足元も濡れながら大変な思いをして行った思い出があります。

それでも会場に入りメンバーが揃ってサロンでリハーサルが始まると、

知らない人達の中で演奏すると言う緊張感と憧れの場所で演奏できると言う嬉しさが入り混じって、

ドキドキしながらも他の人のリハーサルを見たり庭を眺めたりしながら、

「昔はこの庭で優雅にアフタヌーン・ティーなんかしていたんだろうなぁ…」とか、

「このサロンでどんな夜会が開かれていたのかなぁ…」などと遥か昔に思いを馳せたりして、

頭の中はすっかり社交界です…。
・・・・・以下次回へ





                 






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