My life in guitar music
長井 浩氏
【第4章 ギター部時代(その2)】
=ブリーム先生とフーガの技法(その二)=
ギター愛好家の中には病的にバッハに傾倒する人たちがおり、
だいたい私の観測ではギター愛好家の、
20〜30人に一人の割合で存在するのでさほど珍しい存在ではなく、
どのようなギターサークルにおいても必ず一人は居るものである。
彼らの特徴は単純で、(クラシック音楽では)ほとんどバッハしか聞かない、
またはギターではバッハしか弾かない、というものである。
ギターの場合、レパートリーが非常に限定されており、
ベートーヴェンやショパン、モーツアルト等のギター・オリジナル作品がなく、
寂しい思いをしている人は多く(私もそうだが)、
そういう人にとっては、やはりギター用に編曲されたバッハのリュート組曲というのは偉大な宝物である。
さて、新入生合奏の指揮を担当することになった1年上級の指導者もそういったバッハフリークであり、
あろうことかいきなりフーガの技法と来たもんだ。
だいたい10名ほどいた新入生のうち半分は純粋初心者である。
野村ギター教室であれば「峠の我が家」(そんな曲あったっけ?)とか、
「河は呼んでいる」とかを先ず演奏すべきレベルの人達であるのに、
フーガの技法ですよ(ちょっとしつこいか)。
知らない人のためにいい加減な知識で解説すると、
フーガの技法というのは単一のテーマに基づいて、
様々なカノンやフーガが手を変え品を変え出てくる曲集で、
楽器の指定はされておらず、全部演奏するとおそらく1時間以上かかると思う。
完全に理屈、観念の世界の音楽なので、
フーガと言っても有名な小フーガト短調や、
トッカータとフーガみたいな千客万来の親しみやすさはあまりない。
ホテルのロビーのBGMで耳にすることもまずないだろう。
ただ「河は呼んでいる」より新入生の合奏にふさわしい点は、
フーガの場合パートに優劣がないことである。
初心者にとっては、普通はやっぱりメロディーラインを弾く方が楽しいので、
1stの方が得という見方ができるが、
フーガにおいては全員が平等にテーマを弾くことができるのである(弾いて楽しいテーマかどうかはさておき)。
ゴールデンウィークのころに楽譜を渡され、
これを11月の定期演奏会までに仕上げることとなった。
週2回夕方2時間近く練習し、さらに夏は信州、
秋は琵琶湖の西部か小豆島(あずき島ではなく、しょうどしまと読んでもらいたい)で合宿を行った。
さすがにこれだけ練習すれば初心者集団といっても、
秋合宿の頃には何とかフーガに聞こえてきたからえらいものである。
幸い私を含め3名は初心者の域は脱しておりそこそこ弾けたので、
それぞれがパートリーダーとなりパート練習に精を出した成果も出てきた。
入部して2,3日で来なくなった奴をのぞいて残りの新入生には一人の落伍者も出ず、
秋の定期演奏会では無事この三声のフーガを弾きとおすことができたのであった。